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月の旅人

月の旅人

短い長旅の始まり

短い長旅の始まり




午後6時半の便で発つため、3回の海外旅行の中で最もゆったりとした出発になった。
そして、妹と2人だけの初めての旅であり、妹は初めての海外旅行である。
太陽が中天より少し傾いた頃、京都駅からはるかに乗り込んで関空へ向かった。前夜はたっぷりと眠ったはずなのにうつらうつらとしながら、集合時間の1時間と少し前に関空に到着。少し早過ぎるだろうかと思い、国際線の阪急交通社受付カウンターの傍の椅子に座って、喋りながら時間を潰した。

集合時間の30分ほど前になり、「もうそろそろかな」と2人でスーツケースをペットのように傍らに転がして受付カウンターへ向かう。そこにはすでに数人の同行者らしき人たちがいた。私たちが受付カウンターの前に行くと、そこにいた制服姿の受付の女性に「ドイツ旅行の方ですか?」と問われ、肯定すると名前を確認してスーツケースを預かってくれた。
「集合時間の15分前から受付を開始しますので、もうしばらくお待ちください」
そう言われ、あと15分をまた椅子に戻ってやり過ごした。
そしてようやく受付が始まり、カウンターに並ぶ。私たちの前に並んで受付をしたご夫妻はビジネスクラスだった。羨ましい。思わず一緒についていきたくなった。f(^^;)
私たちの番になり、受付カウンターにいた女性の名札が目に入って、その人が今回の旅の添乗員さんであることが判明した。3日前に自宅に電話があり、事前に名前を知っていたのだ。添乗員さんが同行してくれるツアーは今回が初めてなので、添乗員さん自ら受付をしているとは知らず少し驚いた。
現地空港使用料を支払って受付を済ませ、スーツケースを預け終わっても、まだ時間に余裕がある。そこで手荷物検査所のすぐ隣辺りのベンチに再び座って待った。少しの間も立っていない姉妹である。(笑)
いいの、別に。たくさん席があいていたんだから。←言いわけ
手荷物検査所を通過する前に添乗員さんの元へ今回のツアーの全員が集合することになっていたので、その直前にトイレを済ませておいた。
17時10分になり、手荷物検査所前に集まっていた人垣の中に私たちも入る。集まってみると妙に大人数に見える数だった。25名いるらしい。
25人ってこんなようけ(たくさん)の人なんや……。
この人数で移動するのはけっこう目立ちそうである。いや、かなり目立つだろう。
ちょっと厭かも……。(ーー;)
もし治安の悪い所に行けば「ここにいますよ~」と触れ歩いているようなものじゃないだろうか。ま、ドイツは比較的治安の良い国らしいけど。
同行者の顔ぶれを見回すと年配の人たちが多く、「ねー(姉)らがいちばん若いかも」と妹と顔を見合わせて呟いた。ドイツは20代の人たちにはあまり人気がないのだろうか。少し意外に思いながらそこで少し説明を受け、ようやく手荷物検査所を通過した。

その後出国審査も顔パスし(ただヨーロッパ方面は出国手続き用紙記入が不要なだけ)(笑)、搭乗ゲート12番に進んで黄色のベンチに座った。あとは搭乗のアナウンスを待つばかりである。自分の中で恒例となった搭乗機の写真撮影は、残念ながらボーディング・ブリッジ(搭乗通路)の向こう側に機体があって機尾部分しか見えず、中途半端な写真になった……。
キャセイ・パシフィック航空
待っている間、妹は携帯電話で九州の友達と話し、それが終わると我が家に電話をかけて母に「もうじき飛行機乗るわ」と出国報告をし、私にその携帯電話を渡した。
「気ぃつけて行っといでや。喧嘩せんとな」
そう言われた私はなぜかそのとき喧嘩をしないであろう自信があり、「うん、大丈夫」と断言した。
「楽しんどいで」
「うん。行ってきます!」
電話を切ってすぐに搭乗案内のアナウンスが流れ、ゲート前のカウンターで赤い制服姿の女性が白い受話器を横にして口に当て、客室乗務員風にアナウンスをしているのが見えた。続けて英語で同じ内容を繰り返し始めたアナウンスを聞きながら、ゲートに並ぶ。制服の女性に航空券を渡し、機械を通って切られた半券を持って、ようやく機内へ。

航空券をもらった時にシートナンバーを見てもしやと期待していたのだが、期待通り窓側の席だった。しかも座席は2列だったため、妹と2人掛けである。気を使う必要もなくいい感じだ。そして、シンガポール航空だけかと思っていた各座席に1つのモニターもついていて、さらに椅子の座り心地も良く、出発前から“快適な空の旅”が期待できる飛行機だった。キャセイパシフィック航空は人気があると聞いていたが、これだけで大いに頷けた。


正確に出発時刻に機体が動き始め、空の旅が始まった。外はもう、照明の明かりによって空港が浮かび上がっているほどに暮れている。少し小雨が降っていたのか、窓に水滴がついていた。
いつも飛行機では真ん中の席だったため、初めての窓側の席を満喫しようと、窓の外で移り変わる景色に釘付けになった。滑走路へ向かう途中の通路に緑や青の丸い電飾が星のようにたくさん取り付けられ、それが道しるべになっているらしいことも初めて知った。
機体を震わせながら轟音を響かせて加速し、ふわりと地面から離れる。見る間に地上が遠ざかり、街が夕刻地図になりオレンジの星になっていった。

機内食はすぐに出るかと思われたが、出てきたのは1時間半ほどが経過して腹の虫も鳴き飽き、妹共々居眠りを始めた時だった。私は牛肉と野菜の中華風煮込みを、そして妹はうなぎの蒲焼きをオーダーし、互いに半分ずつを食べた。今まで食べたどの機内食よりおいしくて、サラダも和風ドレッシングでおいしかったし、茶そばまでついていて、つゆとわさびの加減がちょうど良かった。きっちり刻みのりまで用意されていたのに驚き、まるで日本の航空機に乗っているかのような錯覚を覚えてしまう。妹と顔を見合わせ頷き合いながら「この茶そばおいしいわ」と満足顔で食べ、すべての料理を綺麗に完食。
おいしい機内食も、キャセイ・パシフィック航空の人気の理由に違いないと確信した。
デザートに出てきたバニラアイスクリームはイマイチだったけど……。
機内食1機内食2
ちなみに、スチュワードさんがとても愛想がよくて笑顔が優しく、少しぽっちゃりした丸顔に細い目が愛嬌のある人で、食事をどちらにしようか迷っていた私たちが牛肉の安全性を心配していると思ったのか、私たちの目線に合わせて座り「ビーフ安全。大丈夫」と言ってはっはっはと笑ってみせた親しみの持てる人でもあった。
「Y(妹)あんな人好きやわ」
「ねー(私)も」
写真を撮らせてもらおうかとしばし熱い視線を送っていたが、そのうちまた満腹感に誘われて眠気が訪れ、気がついたら最終着陸態勢に入ったとアナウンスが流れていた。寝て、食べて、寝て、短いフライトだった。(笑)

四国の上空辺りで乱気流の中を通過している時には揺れて怖かったけど、その後はとても安定して飛行し(おかげで安眠できました)、香港の新国際空港に滑るように到着した。
「機長さんありがとうっ」
小声で言った私を妹が怪訝そうに見た。気づいたのだが、私はよく機体が着陸したのを体感した途端に「機長さんうまいわ」とか「機長さんありがとう」とか口にすることが多いらしい。自分で思っている以上に緊張して飛行機に乗っているのだろうか。それで思わず感謝の言葉を呟いてしまうのかもしれない。
そんな自分を発見しつつ、妹と2人で一番最後に飛行機を降りる。スチュワーデスさんはもちろん、先述のスチュワードさんにももちろん「サンキュ~♪」と言いながら。

ボーディング・ブリッジ(搭乗通路)を通ってゲートを出ると、そこにはすでに同ツアーの人たちの塊ができていて、中心に立った添乗員さんが乗り継ぎ機の搭乗券を配っていた。
到着したのは香港時間の9時半過ぎ。空港内のお店もすでに閉まっている所がほとんどで、待ち時間を非常に持て余すことになった。次の集合時間まで1時間半ほどあり、特に見るお店もすることもない私たちはひたすら集合場所の椅子に座って待った。が、ただの椅子ではなく、私たちが陣取ったのはマッサージチェアである。残念ながらコインを入れマッサージチェアないと動かなかったためただそこに座って、正面の壁に設置されたPanasonic製の薄型テレビをボ~ッと見ていた。男子シングルのテニスの試合が放映されていたが、2人の選手の顔はすぐに忘れたのに、CMのたびに一番最初に流れるネームプレート作成機の宣伝CMが妙に印象に残った。雑然としたオフィスで困っている上司を見て何とかしようとして閃いたOLがネームプレートを作ってファイルを整理するという、日本でも見たようなありふれた内容だったが、無音無声で仕草と表情だけで表現していて、それが2倍速のように高速になっていた、そんなCM。あまりに何度も流れるものだから「またかいっ」と思わず2人でつっ込んでしまった……。

そんな暇で退屈な時間にも、笑えることが2つあった。
1つは、マッサージチェアの右の肘掛の先端部分のプレートに書かれていた内容だ。内容は次のとおり。
『ストレース解消のマッサージチェアーをゆっくりお楽しみください。腰痛・肩凝りの方もで利用ください。
腰痛・肩凝りに有効なマッサーシチェアーへようこそ。ストレース解消にも効きますのでゆ っくりお楽しみください。』
ちょっとしたところが間違っているうえ、たんに言葉を変えて同じことを2回繰り返しているだけである。座ってばっかり寝てばっかりとはいえ少々疲れてきてハイになっていたらしい私たちは、そんな些細なことでも笑った。
実は機内で着陸態勢に入った時にモニターに表示された日本語の案内も、『どうぞ』が『でうぞ』になっていたり、「こんなん読める人いるんか!?」と言いたくなるくらいに高速で文章が変わったりして、まだその時うたた寝中だった妹の横でひとりにやりと怪しい笑いを浮かべていた私。
最初のフライトから楽しい旅になりそうな予感がありありだった。(笑)
話を戻して2つ目の笑えたこと。
香港の空港はそれはそれは広くて、箱型の屋根のない移動車を使っている人が幾人もいた。その運転操作をしているのは空港の人だったのだが、通常はゆるゆるとした速度で黄色いランプをパトカーのように回転させながら「ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっ」とちょっとほのぼのとした音を出しながら通過していったのだが、1時間ほど何度かそういう移動車を見た後でたった1台だけ、「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ」と「ぽ」が繋がるくらいのスピードでやってきて瞬く間に通り過ぎていった移動車があって、
「あんな速かったら『通るし気ぃつけや~』の音の意味ないやん」
「ほんまやわ。危なぁ」
と言って見送った後、急におかしくなって笑い出した。
改めて振り返るとそれほど笑うことでもない気もする……。やっぱりハイになってたのかなぁ。

ほとんどの人が集合場所の椅子に腰掛けて退屈な時間をやり過ごした。この時、いつの間にかツアーの同行者は27人に増えていた。
え…確か関空では25人って言ってたやんなぁ? どこで2人増えたんや……。
そんなことを疑問に思いながら、すぐ傍のエレベーターで地階へ降りた。このエレベーターは乗ったドアと反対の背面のドアが開いて降りる仕組みになっていて、車椅子の人やベビーカーを押している人がエレベーター内で向きを変える必要のないにバリアフリー設計。そうとは知らずみんな体の向きを変えて乗っていたため、
「あれっ、反対側が開いたで!?」
と、ちょっとあわてながら体をくるりと180度回転させて降りた。トラムに乗って移動し、搭乗ゲートのロビーへ。
そこで、同行者の1人が空港の人にパスポートを渡された。なんと空港のどこかで落としていたらしい。それを拾ったのはお客さんで、空港の人に届けてくれたようだった。
「こんなことは普通ないんですよ、パスポートは高く売れますから。親切な人が拾ってくれてよかったですねぇ。失くしてたらこの先みなさんと一緒に行くなんて不可能でしたからね」
よく事情が理解できていないのか無言のままだった当人より添乗員さんが興奮した様子でそう言い、空港の人に何度もお礼を言っていた。
「みなさんもちゃんとパスポートにさわって持っているか確認をしてくださいね!」
落とした人がいたことを知ると急に不安になり、みんな添乗員さんの言葉どおり鞄を覗くだけでなくパスポートにさわって所持を確認する。o( ̄。 ̄)ほっ
そしてすぐに搭乗の列に並び、全員無事に機内へ。

再び窓側の席だったものの外は曇っていて香港の夜景も楽しめず、さっそく眠りに入る。
機中泊でドイツに着いたら観光が始まるため、しっかり寝ておかなければならなかったのだ。
少し眠った頃、夜食らしき機内食が出た。寝ぼけていたせいかスチュワードさんの英語が早かったためか何を言っているのか聞き取れず、妹の横に座っていたツアー同行者の女性に、
「スパゲティーかパンかやって」
と訳してもらって、2人してスパゲッティーをオーダーした。
それにしてもspaghettiとbreadなんて聞き慣れた単語を聞き取れなかったなんて、ショックというか情けないというか……。
期待していたのに、スパゲッティーはまるでグラタンのようにべちゃっと引っ付いていて、まあまあおいしかったのはパックに入ったパウンドケーキ風のデザートだけだった。
別におなかは減っていなかったんだし、食べなくてもよかったかも……。

ちょっと後悔したのもつかの間、またすぐに睡眠に突入した。フランクフルトには午前6時着の予定なので、眠っていればすぐにまた朝食が運ばれてきてあっという間に着くだろうと思っていた。
そして目覚めたとき、まだ現地到着まで5時間弱あるとモニターに表示されたのを見、そこでようやく思い違いに気づいてハッとした。
そっか……ドイツは香港よりさらに6時間の時差があるんやった……。
つまり香港から7時間ほどのフライトだと勘違いしていたのだが、実際には12時間以上ものフライトだったのだ。ヨーロッパは1度イタリアへ行ったことがあるのに、すっかり失念していた。
あかん……5時間もなんて暇過ぎる。もっと寝な!
と、再び寝直し、起きたのは約2時間後。もうかなり腰が痛くて、お尻もつらかった。妹を見ると、私が座り直した振動で起きたのか、私を見てにっと笑っていた。
「あとどれくらい?」
訊かれて、モニターを示す。あと3時間半ほども残っていた。
まもなくフランクフルト「えっ、よう寝たのにまだそんなにあんの!?」
驚く妹に勘違いを説明すると、
「ほなしっかり9時間も寝てたってことやん。そら目も覚めるわ」
と、互いに冴えた目で真っ暗な窓の外を眺めたりしてみた。最初は下に星空があるのかと錯覚したが、そこには地上の町明かりがオレンジ色に光って見えていた。そして視線を上げると、そこには本物の満天の星空が広がっていた。
きれ~っ!(* ̄- ̄*)
そこからはこの町明かりはどの辺かなぁと思ってはモニターで確認し、窓に手で影を作って星空を眺め、退屈しないまま朝食の時間がやってきた。ふと見ると、妹はまたいつの間にか眠っていたけど……。Σ( ̄ ̄ )


オムレツとパンをそれぞれ頼み、早朝の食事を楽しむ。今度はどちらもおいしくてベーコンやハムの塩加減もちょうどよく、オリーブオイルやハーブなどで調理されたホットトマトもヨーグルトも、赤と黄色のそれぞれのスイカも甘くておいしかった。
「朝はやっぱり牛乳飲まなあかんねん」
牛乳好きの妹は「Would you like cafe?」と回ってきていたスチュワードさんに「ミル。…ミル!」と言い「milk?」と通じたところで頷いた。「Just moment, please」と言われしばらくして牛乳を持ってきてもらった妹。満足げに飲み干した後、
「足らんなぁ」
とぼやいていた。将来はオバタリアンか妹よ、といった心境である。(笑)
そして間もなく、いや、ようやく、本当にようやくのことでフランクフルトに到着した。


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